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読書バリアフリーを改めて考える

〜コミュニケーション指導の立場から〜

 

神奈川県総合リハビリテーションセンター

七沢更生ライトホーム     矢部 健三 

 

1.はじめに

 七沢更生ライトホーム(以下『当施設』)は、障害者総合支援法に基づく指定障害者支援施設で、視覚障害者を対象に入所・通所・訪問により、利用者個々のニーズに応じた総合的な自立訓練プログラムを提供している。1973年のオープンから20131231日までの利用者総数は964人を数えている。

 当施設では、視覚障害により生じる読み書きの不自由を軽減するために、コミュニケーション訓練を実施している。本稿では、その訓練内容を紹介し、訓練結果を報告する。

 

2.コミュニケーション訓練の概要

 目が見えない、あるいは見えにくいことから起きる問題は多くある。その中でも文字が使えないことは教育や職業、余暇などの日常生活、社会生活に大きな制限を与える。この制限を少しでも軽減するために、当施設では個々の視覚の状況や進路に応じてさまざまなコミュニケーション手段のなかからふさわしいものを選び訓練を行なっている。

 主な訓練内容を以下に列挙する。

・点字の読み書き

・墨字の書き

・録音図書の利用

・情報機器の操作

・代読、代筆サービスの利用

 

3.利用者の状況

 20112013年の当施設利用者は、入所33名、通所30名、訪問17名の計80(平均年齢51.2歳、最年少19歳、最年長79)であった。表13に、年齢構成、障害原因、障害等級を示した。

 

1 利用者の年齢階級別状況(単位:「人」)

 

19

2024

2529

3034

3539

4044

4549

5054

5559

6064

65

0

1

4

1

4

6

3

2

3

10

5

39

1

1

1

4

1

4

5

4

5

5

10

41

1

2

5

5

5

10

8

6

8

15

15

80

1.3

2.5

6.3

6.3

6.3

12.5

10.0

7.5

10.0

18.8

18.8

100.0

 

 年齢構成では、6064歳と65歳以上の割合がそれぞれ18.8%で最も高い。

 

2 利用者の障害原因別状況(単位:「人」)

 

1

1

5

4

13

3

3

1

2

2

4

0

39

0

0

5

3

14

3

6

2

0

3

4

1

41

1

1

10

7

27

6

9

3

2

5

8

1

80

1.3

1.3

12.5

8.8

33.8

7.5

11.3

3.8

2.5

6.3

10.0

1.3

100.0

※「外」は外傷、「ベ」はベーチェット病、「糖」は糖尿病網膜症、「中」は脳腫瘍や脳血管障害など、「色」は網膜色素変性症、「先」は他の先天素因、「緑」は緑内障、「剥」は網膜剥離、「ぶ」はぶどう膜炎、「未」は未熟児網膜症、「他」はその他、「不」は不明を表す。

 

 障害原因では、網膜色素変性症が33.8%で最も多く、糖尿病網膜症が12.5%、緑内障が11.3%で続いている。

 

3 利用者の障害等級別状況(単位:「人」)

 

1

2

3

4

5

6

不明

22

13

2

0

2

0

0

39

18

16

4

1

2

0

0

41

40

29

6

1

4

0

0

80

50.0

36.3

7.5

1.3

5.0

0.0

0.0

100.0

 

 障害等級では、1級が50.0%で最も多く、2級が36.3%で続いている。

 

4.点字訓練

(1)訓練内容

 読書や学習の手段にしたり、メモや印付けなどに活用したりと目標は様々である。

 当施設では、原則として触読練習を始める前に、点字の模型を使って50音の学習を実施している。50音の学習が終わると、濁音・拗音・数字などの学習まで実施する。

 触読訓練では、点たどりの練習から始め、50音の学習が終わると、単語や短文の読みを実施する。徐々に長い文章を読めるように練習していく。

 書き訓練では、紙のセットや点筆の持ち方など、点字器の基本的な使い方から始め、単語や短文の書きを実施する。徐々に長い文章を書けるように練習し、仮名遣いやわかち書きなど点字表記法についても学習する。また、点字器の他に、点字タイプライターの操作も練習する。

(2)訓練結果

 20112013年の当施設利用者80名の内、入所時、点字を読書手段として用いていた者は9(11.3%)だった。39(48.8%)に点字読み訓練を実施し、その内201312月までに訓練を終了した者は26名である。訓練終了時の到達度によって、表4に示した5段階で評価した。

 

4 点字触読訓練結果の5段階評価

段階

内容

A 10分未満

読速度が32マス18行で1ページ10分未満に到達した者

B 1030分未満

読速度が32マス18行で1ページ1030分未満に到達した者

C 30分以上

読速度が32マス18行で1ページ30分以上に到達した者

D 紹介程度

訓練が清音・濁音・拗音などの単語読みで終了した者

E 構成のみ

訓練が50音などの構成学習のみで終了した者

 

 表5に点字読み訓練の結果を示した。

 

5 点字読み訓練の結果(単位:「人」)

 

5

3

5

8

5

26

19.2

11.5

19.2

30.8

19.2

100.0

 

 点字読速度が10分未満に到達した者は、5(19.2%)だった。一方、紹介程度で終了した者は8(30.8%)、構成のみで終了した者は5(19.2%)に上った。

 

5.録音図書訓練

(1)訓練内容

 視覚障害者にとって、点字図書館などから貸し出されている録音図書や録音雑誌は重要な情報源である。当施設では、デジタル録音図書システム(DAISY)の紹介として、再生・停止・見出しジャンプ・しおり登録といった専用再生機の操作練習を実施している。また、神奈川県ライトセンターなど県内で利用できる情報提供施設を紹介し、利用登録も援助するほか、録音雑誌の定期購読、録音図書の借受などの実習も実施している。

(2)訓練結果

 20112013年の当施設利用者80名の内、入所時、情報提供施設に利用登録していた者は28(35.0%)、録音図書の利用経験があった者は、27(33.8%)だった。23(28.8%)に録音図書利用訓練を実施し、その内201312月までに訓練を終了した者は19名である。

 表6に録音図書利用訓練の結果を示した。

 

6 録音図書利用訓練の結果(単位:「人」)

 

実用

紹介

12

7

19

63.2

36.8

100.0

 

 情報提供施設に登録し録音図書を利用できるようになった者は、12(63.2%)だった。一方、紹介のみで終了した者は7(36.8%)だった。

 

6.情報機器訓練

(1)訓練内容

 スクリーンリーダーなどの支援ソフトやインターネットの利用によって、視覚障害者の情報収集環境は飛躍的に改善される。当施設では、パソコン訓練として、ニュース閲覧、ワープロ、ブラウザ、電子メール、ファイル管理、表計算、宛名印刷などソフトの操作を練習するほか、そのほかの情報機器として、iPadなどのタブレット端末や、ブレイルセンスなどの点字情報端末の紹介も行っている。

(2)訓練結果

 20112013年の当施設利用者80名の内、入所時パソコンを利用していた者は、6(7.5%)で、54(67.5%)にパソコン訓練を実施した。

 表7に情報収集に関連するパソコン訓練の結果を示した。

 

7 パソコン訓練の結果(単位:「人」)

 

実用

基礎

紹介

ニュース閲覧

0

25

3

28

0.0

89.3

10.7

100.0

ブラウザ

5

17

1

23

21.7

73.9

4.3

100.0

 

 ニュース閲覧ソフトの操作訓練は28名に実施した。起動・終了の操作や、全国紙・地方紙・スポーツ紙などのニュース記事の閲覧操作など基本操作を習得できた者は25(89.3%)だった。訓練を実施したものの基本操作を習得できず、紹介程度で終了した者は3(10.7%)だった。

 ブラウザソフトの操作訓練は23名に実施した。コンボボックスやラジオボタンなど各種フォームの操作や、視覚障害者情報総合ネットワーク「サピエ」の利用など実用操作を習得できた者は5(21.7%)だった。検索サイトでのキーワード検索など基本操作を習得した者は17(73.9%)だった。

 

7.おわりに

今回報告したように、当施設利用者は高年齢の者が多い。また、今回は詳述できなかったが、視覚での文字処理が一部可能な者の増加や、高次脳機能障害や精神疾患など視覚以外にも障害を併せ持つ者の増加など、利用者の多様化が進行している。一方、インターネットを利用した電子図書、録音図書、点字図書の配信が普及するなど、視覚障害者の読書環境も大きく変化している。今後もこのような変化を踏まえつつ視覚障害者のコミュニケーション訓練を実施していきたい。

 

 

 

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最終更新日: 2014218()

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