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七沢更生ライトホームにおけるタブレット端末訓練

−中途視覚障害者への指導事例報告−

 

神奈川県総合リハビリテーションセンター 七沢更生ライトホーム 矢部健三

 

1.はじめに

 七沢更生ライトホーム(以下「当施設」)では、198711月からコミュニケーション訓練の一貫として、PCの訓練を実施してきた。今年6月には、iPadなどタブレット端末の訓練環境を整備し、7月から訓練を開始している。

 本稿では、当施設のタブレット端末訓練プログラムを紹介し、今年7月から9月まで訓練を実施した事例について報告する。

 

2.訓練プログラム

 表1に現在当施設で使用している機器を示した。

 基本ソフト(OS)がアクセシビリティに配慮し、画面拡大機能や画面読み上げ機能を標準で装備していることから、訓練では米国アップル社製のタブレット端末を使用している。また、保有視覚によって画面の見やすさや使いやすさが異なることが予想されるため、画面サイズの異なる3機種を用意し、複数の機器の紹介、訓練が実施できる体制を整えた。

 

1 訓練に使用している機器一覧

機種名

画面サイズ

iPad

9.7インチ

iPad Mini

7.9インチ

iPod Touch

3.5インチ

 

 表2に当施設のタブレット端末訓練プログラムを示した。

 概要説明の後、各種アプリの操作を通じて様々なジェスチャや文字入力方法を、段階的に学習できるよう配慮した

 


2 タブレット端末訓練プログラム

項目

内容

ジェスチャ

各部の名称

ホーム、スリープ、音量上下、消音の各ボタン、イヤホンジャック、ライトニングコネクタ

 

起動と終了

電源のオンとオフ、スリープとその復帰

1本指のタッチ、1本指のダブルタップ、

ホーム画面の構成

ステイタスバー、アプリ一覧、ドック

1本指の左右フリック、2本指の上下フリック、2本指のタッチ

アプリ操作1

「日本のニュース」で新聞記事を読む

3本指の左右スワイプ、スクラブ

アプリ操作2

YouTube」で音声検索、動画再生

 

アプリ操作3

TapTapSee」でお札の識別他

 

アプリ操作4

Radikker」でラジオ聴取

1本指で上下スワイプ

Siri」で操作

天気予報を確認、アラーム・タイマーをセット、メールを送信

 

アプリ操作5

「サファリ」によるウェブ閲覧

ローター操作、1本指で上下フリック

アプリ操作6

「メモ」で文字入力

 

アプリ操作7

「メール」の送受信

 

アプリ操作8

「カメラ」で写真撮影

 

アプリ操作9

「カレンダー」でスケジュール管理

 

 

3.事例のプロフィール

 県内在住、男性、50代。網膜色素変性症で視覚障害2級。視力は右0.03、左0,04、視野は求心性10°。

 大卒後電機メーカーに勤務。20年前頃夜盲症の自覚があり、眼科受診、網膜色素変性症の確定診断を受ける。2004年身障手帳取得。昨年9月末で退職。生活訓練全般を受けたいと、昨年12月から今年9月まで、週4回通所の形で当施設を利用。点字は、3年ほど前に1年間訓練を受け、基礎的な読み書き技術は習得済み。PCは、業務でJAWSPC-Talkerを使ってExcelなどを操作。家庭ではIEMYNEWSMYMAILなどを使用していた。

 

4.訓練経過と考察

 表3に事例の訓練経過を示した。

 面接時に、PC訓練のほか、タブレット端末の操作法も知りたい、と希望が出されたので、PC訓練終了後紹介程度の訓練を実施することとした。訓練は7月に開始し、9月末まで週23回のペースで計30回行なった。訓練には本人の希望で、iPad Miniを使用した。

 

3 事例の訓練経過

項目

回数

備考

各部の名称

1

 

起動と終了・ホーム画面の構成

1

 

アプリ操作1

「日本のニュース」

5

爪を立ててしまい、ダブルタップが認識されないことが多い。素早くフリックできず、タッチと認識されてしまうことが多い。

アプリ操作2YouTube

1

爪を立ててしまい、ダブルタップが認識されないことが多い。 

アプリ操作3TapTapSee

2

ダブルタップ操作に改善がみられた。

アプリ操作4Radikker

2

 

Siri」で操作

1

 

アプリ操作5

「サファリ」

7

検索語は音声入力を活用。路線検索では検索ボックスに駅名の入力がうまくできなかった。

アプリ操作6

「メモ」

9

かな・ローマ字・数字のキーボードを切替。ダブルタップ、スプリットタップ、フリックとダブルタップ、タッチ入力モードを紹介するが、いずれも実用的な段階に至らなかった。

アプリ操作7

「メール」

1

 

1回の訓練時間は40分。

 

 先述のように、本事例は訓練を開始する時点で、PCの操作技術を習得していた。そのため、アプリ、コマンド、リンク、Webなど、タブレット端末の操作に必要な概念はすでに理解できていた。しかし、ダブルタップやフリックなどジェスチャ操作の習得には若干時間を要した。本事例には使用しなかったが、ボイスオーバーに標準で装備されているジェスチャ練習機能の活用を今後は検討する必要がある。

 また、文字入力については、様々な方法を紹介したが、いずれも十分習熟できず、最後までストレスを感じていたようである。文字入力の際、入力に使用する手の親指を、端末下辺に添わせると誤入力が減少する、と助言したが最後まで定着しなかった。文字入力時にみられた傾向を以下にまとめた。

1)かな・ローマ字・数字いずれの入力方法でも、目的の文字を探すのに時間を要した。

2)標準入力モードでは、タッチした位置とダブルタップした位置とがずれ、誤入力することが多かった。

3)タッチ入力モードでは、不用意に指を離してしまい、誤入力することが多かった。

4)入力に時間がかかり、どこまで入力できたかわからなくなってしまうことが多かった。

 上記のような傾向から、iPad Miniで文字入力をする際には、かな・ローマ字・数字いずれの入力方法の場合でも、標準モードでスプリットタップを使用するのが容易であると感じられた。

 しかし、タッチパネルのスクリーンキーボードからの文字入力は、晴眼者にとっても難しいことから、視覚障害者に訓練する場合には、予め以下のように説明することが必要と思われる。

1)スクリーンキーボードからの文字入力は、単語程度の入力が限度である。

2)文字入力には音声入力機能を積極的に活用する。

3)文章など多数の文字を入力する場合には、外付けキーボードを使用する。

 

5.おわりに

 20105月のiPad発売以降、様々なタブレット端末が発売され、日本においても急速に普及してきた。一方、ノートPCの出荷台数は急激に減少し今年中にiPadなどタブレット端末の出荷台数がノートPCのそれを上回ることが確実視されている。情報機器の利用目的が、ネットでの簡単なメール送受信やWeb検索、動画視聴などの場合、視覚障害者にとってもiPadなどのタブレット端末は、重要な選択肢の一つになりうるだろう。

 今回は1事例のみの報告であったが、現時点で複数の利用者がタブレット端末の訓練を希望しており、今後も実践を通じて効率的な指導法の確立に努めていきたい。

 

謝辞

 本稿を執筆するに当たって、対象事例には協力を快諾していただいた。この場を借りて心より感謝申し上げる。 

 

参考文献

*1 松坂 治男:2013, 視覚障害者のタッチスクリーン端末の利用とユーザインタフェースに関する研究,  http://www.tsukuba-tech.ac.jp/repo/dspace/bitstream/10460/1149/1/250.pdf.

 

*2 品川博之:2013, 見えなくても使えるiPhone – ボイスオーバーでの操作解説, http://info.iccb.jp/voiceover/.

 

*3 特定非営利活動法人 視覚障害者パソコンアシストネットワーク(SPAN):2013, VoiceOver(ボイスオーバー)を使用した全盲者でも使えるスマートフォンの簡易マニュアル, http://span.jp/iOS_manual/top.html. 

 

 

 

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最終更新日: 20131013()

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