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視覚障害者の人的支援制度の現状と課題

−同行援護と誘導ボランティア−

矢部健三(神奈川県総合リハビリテーションセンター七沢更生ライトホーム)

内野大介(神奈川県総合リハビリテーションセンター七沢更生ライトホーム)

末田靖則(神奈川県総合リハビリテーションセンター七沢更生ライトホーム)

 

論文概要

 同行援護や移動支援など公的制度では、原則として施設入所中の視覚障害者のサービス利用を認めていない。七沢更生ライトホームの入所利用者が外出・外泊する際には家族や誘導ボランティアの援助に頼らざるを得ない。しかし、誘導ボランティアグループの活動状況は地域間格差が激しい。施設入所中の視覚障害者に対する移動の自由を保障するためには、公的制度でも施設入所中の視覚障害者にもサービス利用を認めること、誘導ボランティアの育成・充実を図ることなどが必要である。

 

キーワード:視覚障害、同行援護、誘導ボランティア、福祉制度、移動支援、歩行訓練

 


1.はじめに

 視覚障害者の多くが、移動・外出に大きな困難を抱えている。視覚障害者の歩行手段としては、誘導法、白杖歩行、盲導犬利用などがある。七沢更生ライトホーム(以下「当施設」)では、視覚障害者の歩行訓練として、白杖歩行の他、誘導法の訓練も実施している。

  本稿では、当施設で実施している誘導法訓練と、誘導ボランティア利用の実際を紹介し、施設入所中の視覚障害者に対する移動の人的支援について、その現状と課題を検討したい。

 

2.当施設の紹介

2−1 当施設の概要

 人は外部から得る情報の80パーセント以上を目に頼っていると言われ、視覚に障害を受けると、文字の読み書きや外出、家事など、日常生活の様々な面で不自由を来す。これらの不自由を軽減するための自立訓練プログラムは、職業リハビリテーションに先立つ社会的リハビリテーションの第1歩である。

 当施設は、障害者自立支援法に基づいて設置された指定障害者支援施設で、視覚障害者に対して入所・通所・訪問により、利用者個々のニーズに応じた総合的な自立訓練(機能訓練)プログラムを提供し、家庭や社会への適応を支援している。

 なお、1973年のオープンから2012331日までの利用者総数は914人、退所者総数は898人を数える。

 

2−2 当施設のサービス内容

 表1に当施設のサービス内容を示した。当施設では、視覚障害者に対して、社会・経済活動への参加や家庭復帰など利用者個々の目的に応じたプログラムを編集し、様々な角度から訓練・支援を提供している。

 

1 当施設のサービス内容

訓練科目

訓練内容

生活支援

個別相談、家族支援、健康管理 

個別訓練

感覚訓練

歩行訓練

コミュニケーション訓練

日常生活訓練

集団訓練

体育訓練

学習支援

各種セミナー

レクリエーション・社会見学

2−3 当施設利用者の状況

 表2〜表6に、2010年度〜2012年度の当施設利用者92名の内、入所で訓練を受けた40名について年齢構成、障害原因、障害等級、利用期間、退所先を示した。

 

2 年齢構成(単位:人)

 

19

2029

3039

4049

5059

6069

70

0

4

6

7

5

4

0

26

2

2

2

0

5

2

0

13

2

6

8

7

10

6

0

39

5.1

15.4

20.5

17.9

25.6

15.4

0.0

100.0

 年齢構成は5059歳の者が25.6%と最も多く、3039歳の者が20.5%でそれに続いている。

 

3 障害原因(単位:人)

 

1

5

4

6

2

1

2

1

3

1

26

0

2

2

2

3

0

1

0

2

1

13

1

7

6

8

5

1

3

1

5

2

39

2.6

17.9

15.4

20.5

12.8

2.6

7.7

2.6

12.8

5.1

100.0

※表3中の「ベ」はベーチェット病、「糖」は糖尿病網膜症、「中」は脳血管障害や脳腫瘍などの中枢性疾患、「色」は網膜色素変性、「先」は他の先天素因、「神」は視神経症や視神経萎縮など、「緑」は緑内障、「剥」は網膜剥離、「疾」は他の疾患、「他」はその他を表す。

 障害原因は、網膜色素変性症の者が20.5%と最も多く、糖尿病網膜症の者が17.9%でそれに続いている。

 

4 障害等級(単位:人)

 

1

2

3

4

5

6

不明

21

2

1

0

2

0

0

26

8

3

2

0

0

0

0

13

29

5

3

0

2

0

0

39

74.4

12.8

7.7

0.0

5.1

0.0

0.0

100.0

 障害等級は、1級の者が74.4%と最も多いが、35級の者も12.8%いる。

 

 

 

5 利用期間(単位:人)

 

13ヶ月

46ヶ月

79ヶ月

1012ヶ月

1315ヶ月

1618ヶ月

19ヶ月〜

1

2

3

4

7

4

2

23

2

0

3

1

2

3

0

11

3

2

6

5

9

7

2

34

8.8

5.9

17.6

14.7

26.5

20.6

5.9

100.0

 利用期間は、1315ヶ月の者が26.5%と最も多く、1618ヶ月の者が20.6%でそれに続いている。

 

6 退所先(単位:人)

 

2

9

0

3

0

7

1

1

0

23

1

2

1

0

1

4

1

0

1

11

3

11

1

3

1

11

2

1

1

34

8.8

32.4

2.9

8.8

2.9

32.4

5.9

2.9

2.9

100.0

※表6中の「就」は就労、「盲」は盲学校などあんま・マッサージ・指圧師・鍼師・灸師養成施設、「職」は職業能力開発校など、「福」は福祉的就労、「学」は大学進学など、「家」は家庭復帰、「単」は新規単身生活、「施」は老人ホームなど福祉施設入所、「病」は入院を表す。

 退所先は、盲学校などあんま・マッサージ・指圧師・鍼師・灸師養成施設への進学と、家庭復帰の者が32.4%と最も多い。

 

3.当施設での歩行訓練

3−1 一般的な歩行訓練プログラム

 表7に当施設の一般的な歩行訓練のプログラムを示した。当施設の歩行訓練は、視覚障害者が白杖を使用して単独で外出したり、バスや電車などを利用したりすることを目標に実施している。

 初期・中期の段階で実施する基礎的な技術習得を目的とした訓練は、当施設内外や厚木市内を訓練場所としている。利用者個々の生活状況に応じた自宅周辺や通勤・通学ルートなどの訓練は、原則として終期段階で実施している。

 

 

 

 

7 一般的な歩行訓練のプログラム

段階

内容

初期

 面接・評価

 屋内歩行(身体防御、伝い歩き)

 誘導法(基本姿勢、屋内移動)

 白杖歩行(白杖操作、階段昇降)

 環境把握(情報利用、メンタルマップ)

 屋外歩行:当施設周辺(白杖操作、ガイドライン歩行)

 環境把握(情報利用、メンタルマップ)

中期

 屋外歩行:住宅街、市街地(白杖操作、雨天時など)

 環境把握(情報利用、メンタルマップ)

 誘導法(屋外移動)

 交通機関利用(バス)

終期

 交通機関利用(バス、電車)

 屋外歩行:未知の場所(通行人への援助依頼など)

 誘導法(援助依頼、交通機関など)

 自宅周辺・必要な場所までの歩行

 屋外歩行(夜間時、薄暮時)

 

3−2 誘導法訓練の実際

 表7でも示したように、当施設の歩行訓練では、原則として初期、中期、終期の各段階を通じて誘導法の訓練を実施している。表8には誘導法訓練の実際を示した。誘導時の基本姿勢について説明するほか、屋内での誘導、屋外での誘導を実施し、安全で確実な誘導技術の習得を目指している。その後、誘導ボランティアの利用法を紹介し、必要に応じて利用体験の訓練も実施している。また、集団訓練の各種セミナーでは、誘導ボランティアや同行援護など外出支援制度についての講座を年2回設けている。

 

8 一般的な誘導法訓練のプログラム

段階

内容

初期

誘導の基本

基本姿勢

ドア通過、椅子への着席、狭所通過、階段昇降、白杖所持、様々な路面等

中期

混雑場所

デパート内、エスカレーター

バス・電車の乗降、公衆トイレ等

終期

援助依頼(電車乗降時の駅員利用含む)

誘導ボランティアの利用等

 

4.視覚障害者の外出支援サービス

4−1 公的支援制度

 平成232011)年10月の障害者自立支援法の一部改正では、移動支援事業のうち、重度視覚障害者に対する個別支援を「同行援護」として創設し、自立支援給付に位置づけた。同法第5条第4項において「同行援護」は、「視覚障害により、移動に著しい困難を有する障害者等につき、外出時において、当該障害者等に同行し、移動に必要な情報を提供するとともに、移動の援護その他の厚生労働省令で定める便宜を供与すること」と規定されている。対象者は、視覚障害による障害者手帳の交付を受けた者で、視力障害、視野障害、夜盲などによる移動障害について、独自のアセスメント票を使用して判定する。利用目的は、「通勤、営業活動等の経済活動に係る外出、通年かつ長期にわたる外出及び社会通念上適当でない外出を除き、原則として1日の範囲内で用務を終えるもの。」とされ、通院や買い物、社会参加や余暇活動についても認められている。利用時間(支給量)は、利用者のニーズに基づいた時間」とされ、明確な上限は設けられていない。利用料は、生活保護及び市町村民税非課税世帯は無料、課税世帯については1割負担である。市町村民税の額によって負担上限額が決められているほか、市町村によっては自己負担分を市町村が補助するところもある。

 このほかの制度としては、障害者自立支援法の市町村地域生活支援事業に位置付けられた「移動支援事業」がある。同行援護事業の対象とはならない通勤・通学などの支援やグループを対象とした支援などを、「移動支援事業」として独自に実施する市町村もある。

 いずれの制度も施設入所中の視覚障害者のサービス利用を原則として認めておらず、当施設の入所利用者が外出・外泊する際には、家族や誘導ボランティアの援助を仰がなければならない。

4−2 ボランティア活動

 視覚障害者の外出を支援するボランティア活動としては、誘導ボランティアがある。各地の社会福祉協議会や視覚障害者情報提供施設(点字図書館)などでボランティアを養成し活動しているケースが多いものの、地域によってボランティア数や活動状況に大きな差がある。神奈川県内の33市町村で、201341日現在、誘導ボランティアグループが活動しているのは12市町(36.4%)にとどまる。また、公的な移動の人的支援制度の施行による利用者の減少や、ボランティア従事者の高齢化などにより4市町では、ここ数年で誘導ボランティアグループが解散している。

 

5.当施設利用者のサービス利用状況

5−1 当施設利用者の外出・外泊状況

 当施設での自立訓練を終えたほとんどの入所利用者は、在宅での地域生活に移行する。そのため入所期間中から週末の外泊や外出を促し、入所利用者が家族や地域社会との繋がりを保てるように努めている。

5−2 誘導ボランティアの利用状況

 先述のように、同行援護など公的な外出支援制度では、施設入所中の視覚障害者のサービス利用を原則として認めていない。そのため、当施設の入所利用者が外出・外泊する際の誘導は、家族や誘導ボランティアに頼らざるを得ない。退所後は在宅での地域生活に移行することを踏まえ、歩行訓練で誘導法を紹介した後、外出・外泊時には誘導ボランティアを利用し、家族以外の者に誘導される経験を持つよう、利用者本人並びにその家族に勧めている。表92010年度〜2012年度の当施設入所利用者の誘導ボランティア利用状況を示した。

 

9 誘導ボランティア利用状況(単位:件)

利用目的

2010年度

2011年度

2012年度

公共施設

(ライトセンター、盲学校など)

2

3

10

病院受診

3

6

1

外泊

4

36

16

その他(買物など)

4

4

11

行事

0

0

10

合計

13

49

48

 2010年度に比べ、2011年度、2012年度の誘導ボランティア利用件数が非常に多い。これは、家族などの援助が得にくい、単独での移動が難しいなど、利用者状況によるものと思われる。

 

6.おわりに

 支援費支給制度や障害者自立支援法の施行後、同行援護や移動支援など公的な移動の人的支援制度により、在宅視覚障害者にはサービスの充実が図られてきた。しかし、いずれの制度も原則として施設に入所する視覚障害者のサービス利用が認められておらず、当施設入所利用者が外出・外泊する際には家族や誘導ボランティアの援助に頼らざるを得ない。一方、神奈川県内で誘導ボランティアグループが活動している市町村は、12市町(36.4%)に留まり、地域間格差が激しい。

 施設入所中の視覚障害者に対する移動の自由を保障するためには、同行援護や移動支援など公的な移動の人的支援制度で、施設入所中の視覚障害者にもサービス利用を認めること、誘導ボランティアの育成・充実を図ることなどが必要である。

 

 

参考・引用文献

*1 社会福祉法人日本盲人会連合移動支援事業所等連絡会:2012, 同行援護事業ハンドブックQA 利用者編 改訂版, 社会福祉法人日本盲人会連合 移動支援事業所等連絡会.

*2 (株)ピュアスピリッツ:2010, 視覚障害児・者の移動支援の個別化に係る調査研究事業報告書.

*3 日本盲人会連合:2010, 中・山間地域における視覚障害者の外出についての調査.

*4 視覚障害児・者の移動支援シンポジウム実行委員会:2010, 視覚障害児・者の移動支援における権利保障のあり方について〜視覚障害児・者移動支援に対する考え方と今後の方向性〜.

 

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最終更新日: 2012828()

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