リレーエッセイ
風と絆を感じるブラインドスキー
かながわブラインドスキークラブ会長 矢部健三
「ええっ!スキーしたの?すげえなあ。俺たちやったことないよなあ。」
中学1年の春に失明して盲学校へ転校した私を気遣って久しぶりに遊びに来た小学校時代の友人に、盲学校でスキーを体験したと話したときの反応は、それが私を励まそうとした演技だったとしても、そのときの私にとってはとてもうれしくちょっぴり誇らしいものだった。自転車に乗ったり野球をしたり漫画やアニメを見たりなど、これまで何気なくできていたたくさんのことが失明によってできなくなってしまった。もう楽しいことなんて何もない、と落ち込みうつむきがちだった私にとって、見えなくなってから何かが新しくできるようになるということは、とても素晴らしい経験だった。
私が転校した横浜市立盲学校(現横浜市立盲特別支援学校)では、当時中学部と高等部普通科の生徒を対象に、年に1度、菅平(長野県)でスキー教室を開催していた。初めは宿舎前の広場にある斜面を使ってスキー板を履いて歩く、斜面を登る、滑り降りる、左右に曲がって止まるなど基礎的な練習をした。ある程度滑れるようになると、リフトに乗ってゲレンデに連れて行ってもらい、先生とペアになって滑走した。「右!左!」という先生の指示を頼りにターンして斜面を滑り降りた。
もっとうまく滑れるようになったら、目の見える友人と一緒にスキーを楽しめるようになるかもしれないな…。そんなことを夢見てスキーにのめりこんだ。
私が大学に進学したころはちょうどバブルの真っ盛り。三上博史と原田知世が出演した映画「私をスキーに連れてって」が一世を風靡して猫も杓子もゲレンデに向かった時代。私も大学の友人数名と連れ立ってシーズンに3〜4回は雪を求めて群馬県や新潟県、長野県のスキー場へ出かけた。ゲレンデはどこも大勢の人でにぎわっていた。もちろん友人は視覚障害者と一緒にスキーをした経験はない。「僕の2メーターくらい後ろを滑って、「右!左!」などの声かけで曲がる方向とタイミングを教えてね」と、視覚障害者と一緒に滑る方法を説明した。お互いにおっかなびっくり滑り始めたが、1日が終わるころには緊張も程よく溶け、楽しく滑れるようになった。友人の声を頼りに雪上の風を切って滑る、そして夜は酒とつまみで遅くまで語り合った。障害を越えて友人と同じ趣味を楽しめる、それは中学時代の夢がかなった瞬間だった。
社会人になってからもスキーを続けていたが、仕事や家庭の事情で一緒にスキーに行ける友人は年々少なくなってきた。そこで、1985年の発足時から存在を知っていた神奈川県視覚障害者スキー協会(2001年かながわブラインドスキークラブに改称)に入会した。それから30年余り、毎シーズン、クラブのメンバーとともにゲレンデに通い続けている。スキー歴に比べ技術向上のスピードは遅々たるものだが、初心者コースを滑るのにも四苦八苦していた中学・高校時代と比較すると、リフトやゴンドラを乗り継いで辿り着くような中・上級者コースも今では滑り降りられるようになっているのだからだいぶ上達した。
スキーの魅力は何と言っても広々としたゲレンデの解放感、斜度や深雪を足裏で感じながらスピードを出して風を切って滑り降りる爽快感だろう。それに加え、ブラインドスキーには、ブラインド(視覚障害者)とパートナー(晴眼者)がお互いを信じ協力してゲレンデを滑り下りる達成感というだいご味もある。ゲレンデにいる一般客から「すごい!」と声をかけられると、満足感も一入だ。仕事や家庭を離れ、非日常の世界で、スキー仲間とかわす何気ない会話もとても楽しい。
かながわブラインドスキークラブには、現在ブラインド30名、パートナー110名、合わせて140名ほどが所属している。「かながわ」と名乗ってはいるものの、ブラインドもパートナーも会員の居住地は神奈川、東京、埼玉、千葉と関東一円に及んでいる。1985年の発足以来、かながわブラインドスキークラブでは、毎年スキーツアーを開催してきた。残念ながら2021年はコロナ禍のために開催できなかったが、今シーズンは1月・2月・3月にそれぞれスキーツアーの開催を予定している。例年は群馬県や新潟県、長野県のスキー場を会場にしているが、10周年や20周年、30周年など節目の年には記念事業として北海道でのスキーツアーも開催してきた。オフシーズンには体力向上と交流を目的としたハイキングなどのレクリエーションや研修会も行っている。モットーは、ブラインドもパートナーも対等。スキーが大好きな仲間としてブラインドもパートナーも、スキーはもちろん遊びやクラブ運営も一緒に楽しんでいる。
ブラインドもパートナーも会員は随時募集している。スキーを再開したい、続けたい、もっと滑りたい、というブラインドはぜひ私たちの仲間に加わってほしい。かながわブラインドスキークラブでは、ホームページやFaceBookページ、YouTubeチャンネルを開設し、活動状況などを情報発信している。ホームページのURLは、https://www.kanagawa-blindski.com、事務局メールアドレスは、club.info@kanagawa-blindski.comだ。
点字ジャーナル2023年12月号
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最終更新日: 2024年3月14日(木)
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