七沢更生ライトホーム 矢部健三
去る7月5日(土)の午後、国立特別支援教育総合研究所(特総研)の大内進先生が、今春東京都新宿区高田馬場に開設した「手と目でみる教材ライブラリー」を見学しました。
T.キャロルは、その著書「失明」の中で、中途視覚障害者が失うものの一つとして、美に対する視覚的認識力をあげています。30年ほど前、網膜剥離で視覚を失った私も、それを強く感じています。これまでに私も様々な彫刻に触れたり触る絵画を鑑賞したりしましたが、それらを「美しい」とはとても感じられなかったからです(私の美的センスが乏しいからかもしれませんが)。
この日もまず、イタリアのアンテロス美術館(手でみる美術館)にあるものと同じ「モナリザ」や「最後の晩餐」、それに葛飾北斎の浮世絵「神奈川沖波裏」などの立体レプリカを触って鑑賞しました。人物や背景が浮き出ていて、触ることで絵の構成を確認することができましたが、やはり「美しい」とは感じられませんでした。ただ、大内先生はこの立体レプリカの目的を、「美の鑑賞」ではなく、その絵画を通して歴史や文化を学ぶこととお話しされていました。「最後の晩餐」では、立体レプリカのほかに、それと組み合わせる模型を用意され、サンタ・マリア・デッリ・グラッツェ教会付属の食堂に描かれたこの壁画が、実際はどのように見えるものなのかを説明してくださいました。その他にも、これまでに私費で収集されたゴジラ、仮面ライダー、ゴキブリ、新幹線など様々な模型や、日本髪のカツラ、振袖などの実物、点字指導教材、手でみる絵本などを見せて(触れさせていただきました。
最近では立体コピー機(注1)や点字プリンタを使って比較的容易に触図を作成することができるようになってきました。しかし、2次元の限られた情報から触図を理解するには、物に触れる経験や物の形の知識は欠かせません。触図を活用するためにも、実際の物の形がわかる模型など立体教材が視覚障害教育の現場でもっと活用されることが重要と、大内先生は強調されていました。
「手と目でみる教材ライブラリー」は当分土日のみの開館だそうで、見学者にはゆっくり鑑賞してもらうために、10人から20人の予約制にしているそうです。
所在地: 東京都新宿区西早稲田3−14−2
(JR「高田馬場」駅より徒歩12分、地下鉄副都心線「西早稲田」駅より徒歩7分)
問い合わせ: oouchi.nise@gmail.com まで、。
(注1) 黒でプリントした部分が盛り上がり触知可能な表現ができるコニカミノルタの技術。浮き出させたい原稿を、専用のコピー機を使ってカプセルペーパーと呼ばれる特殊な用紙にコピー、それを専用現像機にとおして熱を加えることで、原稿の黒い部分が膨張し浮き上がる。3Dプリンタとは異なり、立体物をコピーするものではない。
「ロービジョン通信第18号」(2015年7月)
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最終更新日: 2015年8月28日(金)
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