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七沢ライトホームにおけるPC訓練

−多様化するパソコン環境の中での指導−

 

神奈川県総合リハビリテーションセンター 七沢ライトホーム 矢部健三

1.はじめに

 七沢ライトホーム(以下「当施設」と略す)は、身体障害者福祉法に基づいて設置された視覚障害者更生施設で、視覚障害者を対象に入所・通所により、利用者個々のニーズに応じた総合的な生活訓練プログラムを提供している。昭和48年のオープンから平成16331日までの利用者総数は711人、退所者総数は687人を数えている。

 当施設では、198711月からコミュニケーション訓練の一環として、視覚障害者用音声日本語ワープロをはじめとするPC訓練を実施してきた。インターネットの普及などの情報技術の進展に伴い、ここ数年これまでよりも幅広い年齢層の利用者がPC訓練を希望するようになってきた。

 本稿では、当施設で実施しているPC訓練の内容と指導方法について報告し、多様化するパソコン環境における課題を考察する。

 

2.七沢ライトホームの利用者状況

 当施設の定員は、入所20人、通所5人で、入所の時期は、年間を通し定員の空き状況に応じて随時に入所・通所が可能である。対象は、視覚障害による身体障害者手帳の交付を受けている満15歳以上のものである。訓練の期間は、利用者個々のリハビリテーションに必要な期間で、概ね1年である。

 表1に、1999年度から2003年度まで、および1994年度の当施設利用者の年齢階級別状況、表2に障害・傷病別状況、表3に障害投球別状況を示した。

 

1 利用者の年齢階級別状況(単位は「人」)

年度

19以下

20歳代

30歳代

40歳代

50歳代

60歳代

70以上

総数

平均

1994

0

3

8

4

3

0

0

18

38.6

1999

0

1

7

3

8

5

0

24

48.35

2000

2

1

4

1

5

8

0

21

49.1

2001

1

3

2

6

6

4

0

22

45.7

2002

0

0

2

6

8

4

1

21

52.6

2003

1

2

7

3

4

2

2

21

44.6

 

 年齢階級別状況では、各年で多少のばらつきはあるものの、徐々に平均年齢が上昇しており、10年前と比べて10歳近く平均年齢が上昇している。

 

2 利用者の障害・傷病別状況(単位は「人」)

年度

外傷

ベー

糖尿

中枢

色変

その他

総数

1994

1

1

7

0

1

8

18

1999

1

1

7

2

4

9

24

2000

0

0

1

3

6

11

21

2001

0

1

3

6

3

9

22

2002

0

0

5

2

5

9

21

2003

2

0

3

2

4

10

21

※「ベー」はベーチェット病、「中枢」は脳血管障害や脳腫瘍などの中枢性疾患。

 

 障害・傷病別状況では、糖尿病網膜症や網膜色素変性症の他、脳血管障害や脳腫瘍など中枢性疾患によるものが多い。

 

3 利用者の障害等級別状況(単位は「人」)

年度

1

2

3級以上

総数

1994

13

4

1

18

1999

17

5

2

24

2000

18

2

1

21

2001

17

4

1

22

2002

16

5

1

21

2003

14

5

2

21

 

 障害等級別状況では、いずれの年度も12級で9割以上を占めている。

 

3.七沢ライトホームのPC訓練

 訓練は150分で、入所利用者は週3回、通所利用者は週2回程度行っている。職員1名に対し利用者23名の形で訓練を実施している。

 表4に使用ソフト、表5に訓練プログラムの概略を示した。

 20001月から基本ソフト(OS)にWindowsを使用したシステムを導入し、ワープロ以外にもインターネット利用や表計算など様々な訓練が実施できる体制を整えている。

 

4 PC訓練で使用しているソフト

音声化ソフト

PCTALKERXP

95ReaderV5.5

JAWS V4.5

ワープロ

MYWORD5

Word2002

Word2002

Word2002

 

 

ブラウザ

HomePage Reader V3.01

HomePage Reader V3.01

Internet Explorer6

Internet Explorer6

Internet Explorer6

 

メーラー

MYMAIL2

MmMail2

OutlookExpress

MmMail2

 

 

宛名印刷

アドボイス3

宛名職人2004

 

ファイル管理

Explorer

Explorer

Explorer

OCR

MYREAD5

よみともV5.5

 

表計算

Excel2002

Excel2002

Excel2002

点字エディタ

ブレイルスター

ブレイルスター

 

エディタ

MYEDIT

MmEditor

 

 

 訓練プログラムは、ワープロの入門から始まっている。しかし、PC訓練の目的がブラウザやOCRなど、初歩の操作で文字入力を必要としないものの場合は、ワープロの入門を行わず、ブラウザやOCRなどの訓練から開始することもある。また、ワープロの入門から開始した場合でも、これが終了した時点で利用者と話し合いを持ち、今後の訓練内容やその順序を検討して、目標を明確化するよう努めている。

 

5 PC訓練のプログラム

項目

内容

ワープロ(入門)

パソコンのシステム構成・起動と終了

タイピング

文字の入力(ひらがな・カタカナ・漢字)

カーソル移動と音声の聞き取り・文章の校正

文章作成・文書印刷

ブラウザ(入門)

パソコンのシステム構成・起動と終了

ホームページの閲覧(ページとリンク)

ホームページの閲覧(行単位の読み上げ)

しおり機能の使い方

フレームのあるページの閲覧

メーラー(入門)

起動と終了・新規メールの作成と送信

メールの受信と閲覧

返信メールの作成と送信

アドレス帳と送信箱

メールとアドレスの管理

宛名印刷

起動と終了

住所録データの登録

宛名の印刷

登録データの検索と更新

はがきの裏面印刷

ファイラー

起動と終了

ファイルの操作(削除と名前の変更)

ファイルの操作(フォルダの利用)

マイドキュメントの利用

FDのフォーマットとコピー

ワープロ(実用)

文字の入力(記号・特殊音・アルファベットなど)

書式機能(文字揃え・日付の挿入)

ページ設定(B5・はがき)

フォントサイズの変更・文字の装飾

 

文字列の検索と置換

ブラウザ(実用)

ホームページでの検索(単一キーワード)

ホームページでの検索(複数キーワード)

しおり機能の使い方

プラグインソフトを使ったページの閲覧

ないーぶネットの利用

メーラー(実用)

CCとBCC

添付ファイルの送受信

メールの転送と再編集

メーリングリストとメールマガジン

メールの管理と振り分け

その他のソフト紹介

OCR

表計算

点字エディタ

エディタ

ゲーム

PC購入の援助

PCの購入方法

購入費助成制度の利用方法

ハードの選び方

ソフトの選び方

プロバイダとの契約方法

セキュリティ対策

Windowsのアップデート

ウイルス対策ソフトの利用

 

 表6に、1999年度から2003年度まで、および1994年度のPC訓練対象者数を訓練項目ごとに示した。

 

6 PC訓練の対象者数(単位は「人」)

年度

ワープロ

メーラー

ブラウザ

宛名印刷

表計算

OCR

その他

1994

6(0)

0(0)

0(0)

0(0)

0(0)

0(0)

2(0)

1999

14(2)

0(0)

4(0)

0(0)

0(0)

0(0)

1(1)

2000

22(6)

5(0)

6(0)

5(0)

2(0)

1(0)

1(0)

2001

21(9)

10(0)

8(0)

4(1)

0(0)

3(0)

3(0)

2002

23(9)

12(3)

16(1)

4(0)

2(0)

0(0)

0(0)

2003

23(8)

10(0)

14(1)

4(0)

1(0)

1(0)

1(0)

()内は前年度からの継続者数

 

 10年前に比べ、訓練対象者が増加している他、この5年間でメーラーやブラウザなどインターネット利用の訓練対象者が急増している。

 

4.多様化するパソコン環境の中での指導

 「多様化するパソコン環境」と言うとき、「多様化」にはいくつかの意味が考えられる。まず、一つ目は視覚障害者が使用できるソフトやPCを利用する目的の多様化、二つ目はPCの利用を希望する視覚障害者の多様化、三つ目は視覚障害者のPC利用を指導・サポートする機関の多様化である。

 これらの「多様化」について、前述した当施設の現状をふまえて、その課題をまとめてみよう。

1)ソフトの多様化と目的の多様化

 表4でも示したように、当施設では様々な目的に対応するために、複数のソフトを紹介・訓練できる体制を整えている。しかし、これにはソフト購入のコストの他に、職員がその操作法を学習し指導法を習得するなどのコストも発生し、大きな負担になっている。このような状況は、他機関でも同様と思われる。これらのコストを軽減するには、

1)視覚障害者向けのソフトでも「アカデミーパック」のような、教育・訓練機関やパソコンサポートボランティア向けの価格を用意する、

2)視覚障害者に使いやすいインターフェースを用意するほかに、指導者や援助者にもわかりやすいインターフェース(主にWindows標準のもの)も用意する、

などの方策が考えられる。

2)PCの利用を希望する視覚障害者の多様化

 一般家庭にもPCが普及するにつれて、PCの習得を希望する利用者の数も増加してきた。これは、単に数が増加しただけでなく、質の変化も伴っている。つまり、以前に比べ、高齢の利用者や、視覚以外にも障害を併せ持つ利用者が増えている。また、視覚障害者としての学習手段(墨字や点字、テープレコーダーなど)を十分身につけていない者も訓練対象者の中で増えている。このような対象者に従来の指導法で対応するだけでは不十分で、新たな指導法を確立することが必要であろう。

3)視覚障害者のPC利用を指導・サポートする機関の多様化

 以前は視覚障害者にPCを指導する機関といえば、リハ施設や点字図書館などが中心であったが、現在では、当施設のある神奈川県内でもパソコンサポートボランティアや民間企業など複数の機関がPCの指導を行うようになっている。

 当施設では、ワープロだけでなくメーラーやブラウザなどの習得も希望する利用者が多くなったことや、高齢の利用者が増加したことで、限られた利用期間内に目標を達成できない利用者も少なくない。このような利用者が継続してPCを学習するために、パソコンサポートボランティアや民間企業など他機関を利用するケースが増えている。そのため、利用者が学習し購入するソフトの選定や、指導法などで他機関との連携を強める必要がある。

 

5.おわりに

 視覚障害者にPCを指導するものが、「多様化するパソコン環境」に対応しようとするとき、様々なソフトの特徴や操作法、相性、環境設定などの情報を手に入れることだけに目が向きがちである。しかし、これらの情報を持つことは最低限の条件で、よりよいPC指導を実践するためには、

1)見えない・見えにくい状態でなにを頼りにPCの状態を把握すればよいかを理解し、

2)スモールステップ・反復練習・螺旋状のカリキュラムといった教える技能を体得し、

3)質問にすぐ答えず思い出すことを手伝うといった覚える作業を援助する技能を体得すること

などが重要である。

 

 

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最終更新日: 20091118()

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