神奈川県総合リハビリテーションセンター
七沢ライトホーム 矢部 健三
東京盲ろう者友の会(以下「友の会」)では、1991年の会発足以来盲ろう者の自立と社会参加の促進を目的に事業を行なってきた。1998年度と2000年度には「盲ろう者向けテレコミュニケーション事業」の一環として都内在住の盲ろう者6名を対象にコンピュータ講習を実施した。また、2001年度以降は、更生援護事業の中でコミュニケーション方法習得として年に1〜2人にコンピュータ講習を行っている。ここでは、このコンピュータ講習に講師として関わった筆者が、盲ろう者へのコンピュータ指導について、その意義と留意点を紹介する。
「盲ろう者」というと、全盲・全ろうの人と思われがちであるが、友の会でいう「盲ろう者」とは、「視覚と聴覚になんらかの障害を併せ持つ人」のことである。障害程度(表1)や受障時期・受障順序(表2)も様々で、使用できるコミュニケーション手段(表3)も個々の盲ろう者で異なる他、視覚・聴覚以外にも肢体不自由や知的障害、内部障害などを併せ持つ者も少なくない。個々の盲ろう者の障害の状態は多種多様で、コンピュータ指導を行う上で、これを理解することも重要である。
表1 盲ろう者の障害程度
全盲・全ろう |
全盲・難聴 |
弱視・全ろう |
弱視・難聴 |
表2 盲ろう者の受障時期・受障順序
早期盲・早期ろう |
早期盲・中途失聴 |
中途失明・早期ろう |
中途失明・中途失聴 |
表3 盲ろう者のコミュニケーション手段
手話 (sign language) |
てのひら文字 (print on palm) |
指文字 (fingerspelling) |
指点字 (finger braille) |
筆談(墨字) (writing) |
筆談(点字) (braille) |
音声 (oral) |
その他 |
盲ろう者は、視覚と聴覚からの情報が十分得られず、自宅にいても家族との会話にも困難を極める。テレビやラジオ、新聞、すべての情報手段から閉ざされてしまう。単独での外出は危険が多く、家の中で閉じこもらざるを得ない人が大多数である。
盲ろう者が抱える主な困難をまとめると、表4のように整理できる。
表4 盲ろう者の主な困難
コミュニケーション |
対人コミュニケーション |
人との直接的な会話が難しい |
|
テレ・コミュニケーション |
電話・ファックスが利用できない |
|
マス・コミュニケーション |
新聞・ラジオ・テレビなどが利用できない |
移動 |
外出 |
単独での屋外移動や交通機関の利用が難しい |
単独での外出が困難で、電話やファックスなどの通信機器の利用も難しい盲ろう者にとって電子メールはとても便利なコミュニケーションツールである。また、電子メールの形で配信される新聞や雑誌を購読したり、ホームページや文字放送の情報を閲覧できれば、テレビやラジオ、新聞などのマスメディアの情報から疎外されている盲ろう者の情報障害はいくぶん軽減されるだろう。コンピュータ利用は盲ろう者の生活に大きな福音をもたらす可能性を持っている。
盲ろう者がコンピュータを利用する利点をまとめると、表5のように整理できる。
表5 コンピュータ利用の利点
コミュニケーション の困難を補う側面 |
○電話やファックスに代わるものとして電子メールが使える ○テレビやラジオに代わるものとしてメールやウェブでニュースも入手できる |
移動の困難を 補う側面 |
○メーリングリストを利用して遠隔地の人とも情報交換できる ○鉛筆に代わるものとして墨字が書ける |
ところが盲ろう者、とりわけ視覚でディスプレイを確認できない全盲の盲ろう者がコンピュータを利用するのは簡単なことではない。点字ディスプレイに対応した音声化ソフトはあるものの、点字ディスプレイに表示される情報だけで操作することを前提に開発されたアプリケーションソフトはなく、コンピュータ利用にはかなりの習熟が求められる。
盲ろう者がコンピュータを利用する上での困難をまとめると、表6のように整理できる。
表6 コンピュータ利用の困難
画面拡大を利用する場合 |
○表示される情報が少なく、全体像がつかみにくい |
点字ディスプレイを利用する場合 |
○表示される情報が少なく、全体像がつかみにくい ○点字ディスプレイを確認する度にキーボードから手を離さなければならない ○エラーメッセージなどをすぐに確認できない ○コンピュータの電源のON/OFFを確認しづらい |
友の会で実施した「盲ろう者向けテレコミュニケーション事業」では、1回2時間で計20回、マンツーマン形式で講習を行った。しかし、指点字や指文字、手話などでコンピュータ用語やソフトの操作法を説明するのに時間がかかり、1回が4〜5時間になってしまうこともしばしばであった。
盲ろう者を対象としたコンピュータ講習を実施するには、次のような点に配慮する必要がある。
○個別指導を原則とする
○視覚障害者向けの講習に比べ、2〜3倍の時間を確保する
○指導者とは別に通訳・介助者を手配する
○講習内容や操作手順を点字や拡大文字で用意する
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最終更新日: 2009年11月19日(木)
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