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新しい命との出会い

                                                             神奈川県 矢部健三

 みなさん、初めまして。今年の1月に入会した矢部健三と申します。よろしくお願いします。点毎3月29日号をご覧になってもうご存じかも知れませんが、僕は昨年の9月から育児休業を取り、7ヶ月間家事と育児に専念していました。そのいきさつや体験など、たくさん聞いてほしいことがありますが、今日は別のお話をさせていただきます。

 それは、息子の誕生を自宅で迎えたことです。

 病院で出産しなかった理由は、妻が、病室の殺風景な雰囲気や管理的な医者の姿勢、分娩台での出産などが気にいらなかったからです。幸い近くに自宅出産にも応じてくれる助産院があったので、自宅なら妻も一番リラックスできますし、慣れない場所では「お客様」になりがちな僕も自由に動け少しは手伝いもできるだろうと思い、自宅で出産することに決めました。

 自宅での出産に必要なものはほとんど助産院から借りれたので、特に大がかりな準備はありませんでした。自宅での出産が無理だと判断されたときは助産院と提携している病院へ搬送してもらえることになっていましたが、万が一のことも考え、車を運転できる僕の母と二人の共通の友人(もちろん女性)にも立ち会ってもらえるようお願いしました。

 予定日から2週間近く遅れた日の夜10時頃、妻の陣痛が5・6分間隔で始まりました。助産院へ陣痛が始まった旨の連絡をすると、とりあえず様子を見に12時頃担当の助産婦さんが来てくれました。僕の母や友人も連絡するとすぐに駆け付け、助産婦さんに僕、友人と僕の母の4人で妻を囲みました。妻は、布団に横になったりトイレに行ったりお風呂で腰湯に浸かったりしながら徐々に間隔が縮まってくる陣痛に堪えています。陣痛と陣痛の間には、できるだけ妻の気が紛れるようにみんなで雑談していました。

 4時を過ぎた頃には赤ん坊の頭が見えてきました。布団の上で横になっていた妻は、腰の少しでも楽な姿勢をとろうと、四つん這いになったり腰を浮かせて体を起こしたり。僕は妻の隣に座って手を握ったり腰をさすったり・・・。妻のお尻から出始めた赤ん坊の頭を触ってみると、その感触は、殻を剥いたゆで卵のような感じ。頭というと硬いものを想像していたけど、ブニャブニャしていてなんだか頭じゃないみたいです。

 5時半頃それまで妻の足下で座っていた助産婦さんが赤ん坊を受けとめるために四つん這いの姿勢になると、まもなく赤ん坊が生まれました。テレビドラマなどの赤ちゃん誕生のシーンではすぐに産声が聞こえてきますが、このとき産声はありません。仮死の状態だったのです。予定日よりだいぶ遅れ、胎便で羊水がかなり混濁していたので、赤ん坊が気管や肺に入った羊水をうまく吐き出せなかったようです。吸引や酸素吸入の処置をしてもらって、ようやく苦しそうに鳴き始めました。この時間、実際は10分ほどだったのですが、ものすごく長く感じられました。(ちゃんと育ってくれるだろうか?)(もし死産だったら妻とどう接すればいいんだろうか?)・・・いろいろと頭の中を駆け巡りました。

 6時半頃になると赤ん坊の呼吸も落ち着いたので、妻は赤ん坊を胸に抱かせてもらい、僕はへその緒を切らせてもらいました。「ジョリッ」というかなり重い手応えで、赤ん坊にけがでもさせないかとはさみを持つ手が震えました。

 横になった妻とその胸に抱かれた赤ん坊に触れていると、新しい小さな命とそれを育んできた大きな命がとても愛おしく感じられました。

 

「かるがも新聞」NO.49(1998年6月号)

 

 

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最終更新日: 20091125()

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