ホーム

プロフィール

視覚障害者へのパソコン指導マニュアル

研究発表

リンク集

メール

 

中途視覚障害者の点字触読習得を阻むものはなにか?

−糖尿病視覚障害者とその他の視覚障害者の比較から−

矢部 健三(神奈川県総合リハビリテーションセンター七沢更生ライトホーム)

渡辺 文治(神奈川県総合リハビリテーションセンター七沢更生ライトホーム)

喜多井省次(神奈川県総合リハビリテーションセンター七沢更生ライトホーム)

内野 大介(神奈川県総合リハビリテーションセンター七沢更生ライトホーム)

角石 咲子(神奈川県総合リハビリテーションセンター七沢更生ライトホーム)

 

 

1.はじめに

 中途視覚障害者には、点字触読の習得に大きな困難を抱えるケースが少なくない。筆者らは前回調査で、50代以降の中途視覚障害者において点字触読の習得が著しく困難になることを報告した(注1)。

 本稿では、糖尿病が点字触読の習得に及ぼす影響を検討するために、七沢更生ライトホーム(以下「当施設」)で実施した点字読み訓練の結果について、糖尿病網膜症による中途視覚障害者(以下「糖尿病群」)とその他の原因による中途視覚障害者(以下「非糖尿病群」)を比較して報告する。

 

2.方法

調査対象:1991年度〜2010年度の当施設入所利用者341名

調査方法:訓練記録の参照、訓練担当者などへの聞き取り

調査内容:基本属性、触知覚の状況、点字読み訓練の結果等

 

3.訓練対象者の状況

 表1〜表3に、点字読み訓練対象者の障害原因、年齢構成、障害等級を示した。

 障害原因では、糖尿病網膜症が最も多く、31.1%を占めた。これに次いで多いのは、網膜色素変性症の18.3%である。年齢では、50代が最も多く、糖尿病群では35.3%を、非糖尿病群では25.2%を占めた。障害等級では、1級が最も多く、糖尿病群では79.4%を、非糖尿病群では68.9%を占めた。

 

 

表1 点字読み訓練対象者の障害原因(人)

 

外傷性

ベーチェ

糖尿病

他の全身

中枢性

色変

他の先天

視神経

緑内障

剥離

他の疾患

その他

不明

計

男

12

6

51

3

16

31

11

5

13

5

7

1

4

165

女

1

1

17

1

5

9

5

1

4

5

1

0

4

54

計

13

7

68

4

21

40

16

6

17

10

8

1

8

219

%

5.9

3.2

31.1

1.8

9.6

18.3

7.3

2.7

7.8

4.6

3.7

0.5

3.7

100.0

※ 表1中の「ベーチェ」はベーチェット病、「糖尿病」は糖尿病網膜症、「他の全身」は多発性硬化症などの全身性の疾患、「中枢性」は脳血管障害や脳腫瘍などの中枢性の疾患、「色変」は網膜色素変性、「視神経」は視神経症や視神経萎縮など、「剥離」は網膜はく離を表す。

表2 点字読み訓練対象者の年齢構成(人)

 

〜19

20〜29

30〜39

40〜49

50〜59

60〜69

70〜

計

糖

0

4

18

14

24

6

2

68

%

0.0

5.9

26.5

20.6

35.3

8.8

2.9

100.0

非

5

18

34

31

38

23

2

151

%

3.3

11.9

22.5

20.5

25.2

15.2

1.3

100.0

計

5

22

52

45

62

29

4

219

%

2.3

10.0

23.7

20.5

28.3

13.2

1.8

100.0

※ 表2〜表9の「糖」は糖尿病群、「非」は非糖尿病群を表す。

 

 

表3 点字読み訓練対象者の障害等級(人)

 

1級

2級

3級

4級

5級

6級

不明

計

糖

54

11

3

0

0

0

0

68

%

79.4

16.2

4.4

0.0

0.0

0.0

0.0

100.0

非

104

39

3

3

2

0

0

151

%

68.9

25.8

2.0

2.0

1.3

0.0

0.0

100.0

計

158

50

6

3

2

0

0

219

%

72.1

22.8

2.7

1.4

0.9

0.0

0.0

100.0

 

 

 

 

4.訓練内容

 表4に点字読み訓練の流れを示した。

 訓練前評価では、日本語表記の知識や触知覚の状況、基礎的な学力などを評価している。若年者で触知覚テストと学習テストの得点が高い者を除き、原則として点字読み訓練の導入前に、点字学習具*1を使用した点構成の学習から訓練を開始している。点字読みテキストは、中期段階まで、点字プリンターET*2で印刷した国際サイズ点字(注3)のものを使用し、標準の日本サイズ点字(注4)には終期段階で移行することを原則としている。なお、初期段階での運指については、指の上下動を積極的に行う読み方(注5)を基本に指導している。

 

図1.点字学習具

表4 当施設での点字訓練の流れ

段階

内容

評価

普通文字の書き

触知覚テスト

学習テスト(国語・算数・理科・社会)

初期

点構成の学習

点辿り

清音・長促音・濁音・拗音・数字の学習

1行程度の短文読み

中期

1ページ程度の短編読み

※点字器での書き導入

記号・アルファベット・特殊音の学習

2〜4ページ程度の短編読み

終期

5ページ以上の短編読み

※点字タイプライターでの書き導入

点字雑誌、辞書、英語点字などの紹介

※ 訓練前評価の「普通文字の書き」は、50音・数字・アルファベットの書き、かなのみの短文書き・漢字交じりの短文書きなど。

※ 訓練前評価の「触知覚テスト」は、点字による触察検査(注2)。1行1問で、見本項、選択項4の計5コの点字をそれぞれ2マスあけで配置。4コの選択項の何番目が見本項と同じものであるかを答えてもらう。20問で各問につき、第1試行で正答なら2点、再試行で正答なら1点。合計40点満点。

※ 訓練前評価の「学習テスト」は、小学〜高校程度の教科学習に関する検査。国・数・理・社、合計60点満点。

 

5.結果と考察

(1)糖尿病群と非糖尿病群との比較

 表5に触知覚テストの結果を、表6に学習テストの結果を示した。

知覚テストは201名に実施した。非糖尿病群では36〜40点の者が最も多いのに対し、糖尿病群では31〜35点の者が最も多く、末梢神経障害の影響がうかがえる。

 学習テストは173名に実施した。糖尿病群・非糖尿病群で学習テストの得点に大きな差は見られなかった。

 表5 触知覚テスト結果(人)

 

20以下

21〜25

26〜30

31〜35

36〜40

計

糖

3

5

16

25

16

65

%

4.6

7.7

24.6

38.5

24.6

100.0

非

6

12

20

41

57

136

%

4.4

8.8

14.7

30.1

41.9

100.0

計

9

17

36

66

73

201

%

4.5

8.5

17.9

32.8

36.3

100.0

 

 

表6 学習テスト結果(人)

 

20以下

20.1〜30

30.1〜40

40.1〜50

50.1〜60

計

糖

4

13

19

18

5

59

%

6.8

22.0

32.2

30.5

8.5

100.0

非

10

30

28

30

16

114

%

8.8

26.3

24.6

26.3

14.0

100.0

計

14

43

47

48

21

173

%

8.1

24.9

27.2

27.7

12.1

100.0

 

 

 表7 点字読み訓練の結果(人)

 

10分未満

10〜30分未満

30分以上

紹介程度

構成

計

糖

6

11

9

31

11

68

%

8.8

16.2

13.2

45.6

16.2

100.0

非

24

20

29

49

29

151

%

15.9

13.2

19.2

32.5

19.2

100.0

計

30

31

38

80

40

219

%

13.7

14.2

17.4

36.5

18.3

100.0

 

表7に点字読み訓練の結果を示した。

点字読み訓練の対象者は、終了時の到達

度によって、以下の5段階で評価した。

「10分未満」 読速度が32マス18行で1ページ10分未満に到達した者

「10〜30分未満」 読速度が32マス18行で1ページ10〜30分未満に到達した者

「30分以上」 読速度が32マス18行で1ページ30分以上に到達した者

「紹介程度」 訓練が清音・濁音・拗音などの単語読みで終了した者

「構成のみ」 訓練が50音などの構成学習のみで終了した者

 

 糖尿病群で点字読速度が10分未満に到達した者は、6名(8.8%)である。非糖尿病群で10分未満に到達した者が24名(15.9%)であったのに比べると、その割合は大きく下回った。一方、糖尿病群で紹介程度や構成のみで終了した者は42名(61.8%)である。非糖尿病群で紹介程度や構成のみで終了した者が78名(51.7%)であったのに比べると、その割合は10%以上高かった。

(2)若年層と中高年層との比較

 表8には、糖尿病群と非糖尿病群をそれぞれ、若年層(39歳以下)と中高年層(40歳以上)のグループに分けて、触知覚テストと学習テストの平均得点を示した。触知覚テストの平均得点は、非糖尿病群の中高年層(31.6点)よりも糖尿病群の若年層(33.8点)が高かった。

 

表8 グループ別触知覚・学習テスト結果

 

触知覚テスト

学習テスト

糖・若

33.8

36.8

非・若

35.2

35.9

糖・中

30.8

36.4

非・中

31.6

37.4

 

 表9には、糖尿病群と非糖尿病群をそれぞれ、若年層(39歳以下)と中高年層(40歳以上)のグループに分けて、点字読み訓練の結果を示した。

点字読速度が10p分未満に到達した者の割合は、非糖尿病群の中高年層(9.6%)よりも糖尿病群の若年層(18.2%)が高かった。一方、紹介程度や構成のみで終了した者の割合は、非糖尿病群の中高年層が63.8%だったのに対し、糖尿病群の中高年層は78.3%と大きく上回っていた。

 

 

 

表9 グループ別点字読み訓練結果(人)

 

10分未満

10〜30分未満

30分以上

紹介程度

構成のみ

計

糖・若

4

9

3

5

1

22

%

18.2

40.9

13.6

22.7

4.5

100.0

非・若

15

13

11

7

11

57

%

26.3

22.8

19.3

12.3

19.3

100.0

糖・中

2

2

6

26

10

46

%

4.3

4.3

13.0

56.5

21.7

100.0

非・中

9

7

18

42

18

94

%

9.6

7.4

19.1

44.7

19.1

100.0

※ 表8、表9の「弱」は若年層、「中」は中高年層を表す。

 

 これらの結果から、以下の2点が示唆された。

 

1)糖尿病の末梢神経障害が点字学習に及ぼす影響は、加齢に伴う影響よりも小さい。

2)糖尿病群は、加齢に伴う点字学習への影響が、非糖尿病群より顕著に表れる。

 

6.おわりに

 糖尿病では網膜症、腎症および末梢神経障害などの合併症が高率にみられるが、これに加えて最近糖尿病に伴う認知機能障害が新たな中枢神経系合併症として注目されている。特に、高齢の糖尿病者は他の高齢者と比べ、認知機能の低下が多くみられ、さらに経過とともにその悪化も多くみられることが知られている。(注6)

 今回の調査結果では、糖尿病群の中高年層で点字の触読を習得できなかった者(紹介程度や構成のみで終了した者)が極めて多かった。これは糖尿病に伴う認知機能障害が、点字触読の習得に何らかの影響を及ぼしているものと推測される。したがって、糖尿病網膜症による中途視覚障害者への点字読み訓練を実施するに当たっては、この点に留意することが肝要だろう。

*1 点字学習具(2マス):弘誓社製,

http://yougu.nittento.or.jp/product708_80.html

*2 点字プリンターET:米国Enabling

Technologies Company製,

http://www.amedia.co.jp/product/et/manual/mokuji.htm

《参考文献》

1) 矢部健三、渡辺文治、末田靖則、喜多井省次、内野大介(2007):中途視覚障害者の点字触読習得を阻むものはなにか? −生活訓練施設における点字読み訓練の結果から−,第16回視覚障害リハビリテーション研究発表大会論文集,p111-114,視覚障害リハビリテーション協会.

2) 小川喜道(1984):中途視覚障害者の訓練効果の推定−訓練後の点字能力評価と訓練前検査の比較,「センター研究紀要No.11」,p26-32,神奈川県総合リハビリテーションセンター.

3) 吉田道広、澤田真弓、正井隆晶(2002):中途失明者の点字指導に関する研究(�U)−カリフォルニアサイズ点字と国際サイズ点字の触読の違いについての検証−,第40回日本特殊教育学会発表論文集,P298,日本特殊教育学会.

4) 木塚泰弘(1981-1982):点字科学散歩,交流誌かけはし,No.113-126, 神奈川県ライトセンター.

5)澤田真弓、原田良實(2004):中途視覚障害者への点字触読指導マニュアル,読書工房.

6) 羽生春夫(2010):糖尿病患者の認知機能障害,月刊糖尿病-10年10月号,p17-22, 医学出版.

 

 

メール どうぞ、ご感想を気軽にお寄せください。

 

 

ホーム

プロフィール

視覚障害者へのパソコン指導マニュアル

研究発表

リンク集

メール

 

最終更新日: 2011年12月25日(日)

© 2009 矢部健三. All rights reserved.