視覚障害スキーヤーへの援助指針

−ブラインドスキー・サポートガイドラインの作成を通して−

 

矢部健三

Kenzou Yabe1

 

 視覚障害者にとってレクリエーション・スポーツの選択肢や機会はまだ限られているのが現状である。そこで、かながわブラインドスキークラブでは、視覚障害スキーヤーを支える晴眼スキーヤーの育成を目的に、「ブラインドスキー・サポートガイドライン」を作成した。視覚障害者への基本的な接し方や、事前準備から滑り終わるまでの流れを紹介するとともに、技術アドバイスを行う際の注意点や、初めてスキーに挑戦する者への指導法も紹介した。

 

 

キーワード:視覚障害者、スキー、支援者育成、スポーツボランティア

KeywordsVisually impaired person, skiing, supporter development, sports volunteer

 

 


1.はじめに

 

視覚障害者がレクリエーション・スポーツをしたいと考えたとき、その選択肢や機会は限られ、その環境はまだ充実しているとはいいがたい。アルペンスキーも例外ではなく、視覚障害スキーヤー(以下「B」)がゲレンデを滑走する際には、それを支援する晴眼スキーヤー(以下「P」)が必須であるものの、その数は限られるのが現状である。このような人材の確保・育成は、視覚障害者にアルペンスキーの機会を提供する団体に共通する大きな課題である。

タイトル: 所属 - 説明: 1神奈川県総合リハビリテーションセンター・七沢自立支援ホーム・〒243-0121 神奈川県厚木市七沢 516・046-249-2337そこで、かながわブラインドスキークラブ(以下「当クラブ」)では、Bを支えるPの育成を目的に、「ブラインドスキー・サポートガイドライン2017年版」(以下「ガイドライン」)(https://kanagawa-blindski.com/wp-content/uploads/2018/04/Guideline_2017ver1.pdf)を作成した。本稿ではこの作成経過とその内容を紹介する。

2.かながわブラインドスキークラブの紹介

 

 当クラブの設立は1985年で30年以上の活動歴を有しており、同種の団体では最も歴史のある団体である。その母体は、神奈川県ライトセンターを拠点に活動するボランティア団体、神奈川県視覚障害援助赤十字奉仕団が1980年から毎年開催していた視覚障害者向けのスキー講習行事「ブラインドスキー」である。その参加者が中心になり、1985年に「神奈川県視覚障害スキー協会」を設立した。その後、2001年に「かながわブラインドスキークラブ」に改称して現在に至っている。

 20193月末時点の会員数は、視覚障害者30名、晴眼者81名、計111名である。毎年2回のスキーツアー開催の他、会報の発行、研修会・交流会などの開催を年間数回実施している。

 

 

 

3.ガイドラインの作成方法

 

 当クラブ内にB1名、P2名、計3名からなるガイドライン検討ワーキンググループを立ち上げ、20176月から9月まで、毎月1回、計4回検討会を開催した。ガイドライン作成に当たっては、過去に当クラブでまとめたスキー誘導法のマニュアルの他、視覚障害者スキーに関連する先行研究文献をいくつか参照した。

 

4.ガイドラインの内容と特徴

 

4−1. 構成

 表1にガイドラインの目次を示した。スキー滑走時の誘導法だけでなく、視覚障害者への基本的な接し方や、事前準備から滑り終わるまでの流れを紹介するように編集した。

1 ガイドラインの目次

1.

ブラインドスキーってなに?

2.

ブラインドは全く見えないの?どんなことが苦手なの?

3.

さあスキーだ!その前の準備

4.

ゲレンデへ移動しよう!

5.

ゲレンデに出たらまず…

6.

リフトに乗ろう!

7.

さあ滑ろう!

8.

スキー誘導の種類と特徴

9.

誘導の声掛けはどんなふうにしたらいいの?

10.

雪上以外でのサポート

11.

安全にスキーを楽しむために!

12.

お疲れ様!宿に戻ってきたら?

付録1

技術アドバイスの方法

付録2

ブラインド初心者への指導法

4−2. スキー誘導法の解説

 スキー誘導法については、視覚障害スキーヤーの見え方や滑走技術、ゲレンデ状況によって望ましい形が大きく異なるため、「マニュアル」として誘導法を限定するのではなく、基本的な誘導法を指針として紹介するにとどめた。また、スキー誘導時PがBに行う指示(声掛け)について、基本的な事項だけでなく応用的な事項を例示するとともに、様々な工夫も紹介した。

4−3. その他

 付録として、視覚障害スキーヤーに技術アドバイスを行う際の注意点や、初めてスキーに挑戦する視覚障害者への指導法も紹介した。

 

5.おわりに

 

 イラストを多用することで、わかりやすく親しみやすいガイドラインを作成することができた。今後は、当クラブ内でBを支えるPの育成や技術向上に活用するとともに、当クラブホームページなどで広く公開し、視覚障害者のスキー環境の充実・発展に繋げていきたい。

 

参考文献

1)    佐藤紀子:視覚障害スキーヤーを対象としたスキー指導、 日本大学歯学部紀要、 38 115-121

2)    佐藤紀子:視覚障害スキーヤーに対するスキーガイド方法、日本大学歯学部紀要、 39 85-89

3)    渡辺文治・白崎正彦・増田良一・間嶋和子:視覚障害スキーヤーのスキー誘導法、視覚障害リハビリテーション協会紀要、 2 16-22

4)  矢部健三・串田直樹:視覚障害者スキーの現状と課題−ブラインドスキーサミット2015の開催を通して−、視覚リハビリテーション研究、第6巻第2号、 48-51

5)  かながわブラインドスキークラブ:ブラインドスキーマニュアル、https://kanagawa-blindski.com/?page_id=76 2017.6